イカロスの逢瀬

△ 台本について 

 ・1人劇 性別不問

 ・所要時間 5分~10分くらい

どんなお話?

 →主人公「僕」はお正月の親戚の集まりのときに一目ぼれをしました。話せば話すほど好きになる。恋に落ちるのと同じように頭も冷えていく。恋愛って難しいって話


 △ 人物紹介

僕:彼女に一目ぼれをした人。(一人称が「僕」なだけなので、彼女に恋をしたのは男性でも女性でもどちらでも構いません。)


△ 今回使用するイカロスの話のあらすじ(簡単に)

 イカロスは蝋で翼を作りました。自由に飛べる翼をもったイカロスは、「太陽に近づいてはいけない」という言いつけを破り、太陽を目指して飛び立ちその蝋を溶かしてしまいます。溶けた翼では空を飛びつづけることができず、やがてイカロスは墜落死してしまいました____




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僕:最初にあの人に会ったのは、お正月の親戚の集まりでした。いや、これも厳密(げんみつ)には正しい表現ではありません。【彼女はずっとそこにいました。ただ、僕が初めて見つけることができたのは、その時でした。】

僕:家には祖父の趣味で集めていた日本文学全集 が壁一面をうめるほどありました。ほかにも、日本のものか海外のものかわからない置物がありますが……、彼女はその壁にいつも寄り掛かって、自身の顔よりも大きい本をいつも読んでいました。まるでもとからそこにあったように佇(たたず)んで静かに読んでいたのです。

僕:僕はそれを見たとき、声をかけずに居られない衝動を感じました。けれど声はかけなかったのです。あまりに綺麗だったので、【声をかける勇気がありませんでした】。

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僕:彼女を意識するようになって、次にあったのはしばらく後でした。雪がなんども降ったと思うほどウンと後です。ですがまだ春は来ませんでした。

僕:フラッと見つめた公園に彼女がいたのです。ベンチに座って、どこかをボウっと見ていました。僕は驚くことに、以前の勇気の有無(うむ)をまったく感じさせない足取りをもって、彼女に声をかけることができました。

僕:僕は「こんにちは」と声をかけました。彼女は驚いたふうにした後、挨拶を返してくれました。ここで僕はようやく自己紹介をしたのです。すると彼女はフッと笑って「やっぱりあの人だったのね」と言ったのです。

僕:僕はびっくりしました! 彼女は本ばかりに気をとられて、周りの人など見えていないと思ったからです。僕も、最近まで彼女を知らなかったのですから、彼女もそうだと無条件に思い込んでいました。

僕:そこから僕と彼女はいろいろと会話をしました。必要以上に彼女の私生活に踏み込まないように話をしました。夕方になる頃にはすっかり仲良くなって、連絡先も交換しました。そうして、僕と彼女は会う仲になったのです。

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僕:僕は、知れば知るほど彼女に惹かれていきました。淑(しと)やかで美しい人といるのは気分がいいし、知識があって頭がよかったので会話も楽しかったのです。彼女といると僕は、以前の僕より強い人になった気がして、毎日気が楽になりました。

僕:春になって桜の花が降るようになると、もう僕と彼女の仲は親戚と言う言葉で片付くものではなくなりました。待ち合わせは公園のベンチからカフェのテーブルになり、会話も、お互いのお話ももちろん、買った本の感想や実際に交換をしてみたり、一緒にお出かけをしたりする日もありました。

僕:彼女と話をしていて僕が気になったお話は神話でした。どうやら読書家では神話は当然の話だといわれましたが、そもそも明るくない僕にしてみれば随分新鮮なことを聞かせてくれました

僕:神話の中でも特に、太陽へ飛んだ鳥の話が好きでした。残念だったのは、彼女が飛んだ鳥の名前を忘れたことです。僕はそのとき笑いました。

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僕:夏になり、秋になりました。するととたんに、僕は今まで楽しかった日々が途端に、恐ろしくなってきました。呆然と、このままではなんとなくよくない気がするという衝動にかられたのです。ですが一体何に【恐れている】のか、僕はわかりませんでした。

僕:それでも彼女に会いにいくのはやめませんでした。どうしても会いたい、話してみたい、何となく思っていても、やめることができませんでした。彼女はあまりにも悪い所がなく、いるだけでも癒されて安心できたからです。

僕:秋の葉がつもる道を眺めると、不安な思いは強くなりました。次第に僕は、この気持ちの正体をわかりかけてきたのです。ですが僕は、またしても勇気がありませんでした。この状況を甘んじて受け入れ、なにも考えないで進むほうが楽だったからです。

僕:次第に雪が降る季節になりました。最近になって彼女が、急に「あの日に会った公園にいこう」というので、僕はそれを了承しました。

僕:僕たちは思い出話をしました。ここ一年の僕達の関係の話です。僕は彼女と会話をしながら、脳の片隅では癒しと恐怖を得ていました。いや僕は、これが正しく恐怖なのかもわかりかねていました。不安と衝動で、意識しないと倒れそうにまであったのです。

僕:僕はふと、あの家にある一面の棚にたたずむ彼女を思い出しました。時がそこだけ止まり、四季など感じさせないあの空間を思い描きました。そこに僕がいると思った時、

僕:僕はとたんに、脳みそが揺れるほどの【恐怖を覚えました】。そこに【僕は居てはいけない】のです。既に完成された美術品を、たった一針(いっしん)とて壊すような大罪を犯すつもりはありませんでした。

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僕:僕はただちに彼女から離れる決意をしました。親戚か、それ以上に遠い存在になろうと思ったのです。僕が「もうきみと話すのをやめようとおもう」というと、当然悲しそうな顔をしました。10割ほど僕の勝手が引き起こした逢瀬(あいせ)です。彼女には申し訳ないと思っていましたし、彼女を悲しませるのも当たり前だとわかっていました。不思議だったのは、彼女はどこか満足しているような、納得したような顔をしているところです。

僕:彼女は最後にこう話しかけました。

僕:「あなたが気に入っていた神話の鳥の名前を、ようやく思い出したわ」

僕:「……でももう、興味は無いみたいね」

僕:ぼくが公園から出て行った後のことでした。

0:(イカロスはその傲慢さで翼を焼かれ、地に落ちたが、僕はそれほど愚かでなかったようだ)

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晴耕雨読

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amamiya

劇をするにあたり演者様の都合の悪い部分の改変は許可します。しかし改変後のシナリオ配布などはしないでください。アイコンは上田にかいてもらいました。