あかずきんの友人

△ 台本について 

 ・3人劇 (1:2:0)

 ・所要時間 10分 

どんな話? 

 →目の見えない赤ずきんのアマリリス。お母さんから「お父さんのお弁当をもっていって」とお使いを頼んだ。でもアマリリス、お使いの途中で秘密のお友達に会いたい! 


 △ 人物紹介

 アマリリス:森にすむ一家の一人娘。父は狩人。母は主婦。愛称はアン 

ヴィル:最近森に住んだらしい。人に話してはいけない内緒の友人。愛称はヴィル

 母:アマリリスの母。




母:まって頂戴、アン。服を見てあげる

アン:ありがとママ。私だいじょうぶ? 忘れ物はしてない?

母:ええ。パパにあげるお弁当も持っているし、服もばっちり

アン:ん

母:じゃあ、森に入るときのママとの約束、もう一度教えてちょうだい

アン:いち、知らない道を歩かない、

アン:に、知らない人についていかない、

アン:さん、寄り道をしない。

母:よくできました。ほら、ずきんよ

アン:行ってきます

母:いってらっしゃい

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アン:(息を吸っている)

アン:今日はいい日だ。

アン:雨の匂いがしない。こんなに日向もポカポカ。いい天気。こんな日はピクニックしないと損だよ。ね、そうでしょ。

アン:……あれ、ここにはいないのかな。

アン:私ね、まえに町に下りた時にパン屋さんに入ったんだけど、ちょうどパンが出来上がる時間だったみたいで、店中にパンの匂いがしたの。そこで食べたパンはとってもおいしかった。

アン:パン屋さんがね、パンによく会うお紅茶を教えてくれたの。でも残念。うちで紅茶が好きなのはママだけ。私はコーヒーのほうが好き。内緒だけどね。ママは、女の子はコーヒー飲んじゃダメっていうから。

アン:でもやっぱり言われんだ。どこに行っても「やっぱりしっくり来ないね」って言われる。私の声、やっぱ変みたい。ママもパパもそう思ってる。……ヴィルもそう思うのかな。

アン:……鳥の声がする。そうだ、パパにお弁当を届けるまえに花畑にいこう。きっと今頃は花が満開だ。こんなにいい天気だもん。お弁当に花を添えても怒らないって、

アン:花畑ってこっちだったよね。

アン:そうそう、ここに大きい木の根っこがあった。それで、ここはすこしくぼんでる。前にパパが、ここに子鹿が座っているのを見たことがあるって言ってた。

アン:それで、もう一つ木の根っこを踏んだ先に、

ヴィル:ねえアン。木の根っこの上あるくのやめなよ

アン:こんにちはヴィル。こんなところにいたの

ヴィル:今日はいい天気だからね

アン:やっぱり。こんな日は遊ばなきゃ損だよね

ヴィル:そりゃそうだよ。……その手に持ってるのはバスケット? ピクニックしにきたのかい

アン:ちがうよ。パパにお弁当を届けに行く途中なの

ヴィル:君のお父さんは狩人だろ。狩人小屋はこっちじゃないじゃないか。いいのかい、道草なんかくって

アン:いいって、パパも私に似て手癖が悪いんだから、どうせ干し肉のつまみ食いするよ

ヴィル:逆だろ。君がパパに似たんだ

アン:私はパパ思いだから、お弁当にお花を添えて届けてやろうとおもって

ヴィル:もう言ってろよ

アン:よっと(座る)

ヴィル:あーあ座っちゃった。そこ日向だよ。影のほうにきなよ。こっちだ。時計7時の方向に2歩分歩けば日陰だ。

アン:いいの。今日は太陽に当たりたい気分。

ヴィル:言ってろ

アン:(深呼吸)

アン:やっぱりだ。今日はいい天気。

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ヴィル:バスケットには何が入ってるの?

アン:ん~。パンと、パンと、パン

ヴィル:適当だな~。……お、サンドイッチある

アン:あとお酒?

ヴィル:ワインあるねぇ。これ、いいワインだ。

アン:ちょっと、食べないでよ。私が食べるんだから

ヴィル:これお父さんのお弁当だろ?

アン:いいの。私はパパの娘だから

ヴィル:言ってろ

アン:言ってる言ってる。ほら、そのカゴをこっちに寄こして

ヴィル:僕もなんか食べたいなぁ。なんか食べていいのある?

アン:お、フランスパンだ。これを半分に割って、残りはパパの、

ヴィル:聞いてる?

アン:聞いてるって、この半分になったパンをもう一回ちぎる。はい。あげる

ヴィル:ちっちゃ

アン:いいでしょ。まだ朝なんだから。お昼ご飯まで待ちなよ

ヴィル:しょうがないなぁ

アン:もらってる分際で頭が高いなぁ

ヴィル:このパンおいしい

アン:でしょ。昨日パン屋に行ってきたの

ヴィル:町に下りたんだ

アン:ソ。ヴィルは最後に下りたのいつ?

ヴィル:覚えてないなあ

アン:私も。久々だったなぁ

アン:ね、知ってる? いま町で人喰い狼の噂があるんだって

ヴィル:人喰い?

アン:ソー。すっごい大きいの。大人くらい大きい狼が人を喰うんだって。みんな人狼の仕業だって言ってた

ヴィル:人狼かぁ

アン:人狼、どこに住んでるんだろうね。やっぱり町かな。森じゃ聞いたことない。てか森に住んでたらどうしよ!

ヴィル:そんなワクワクするなよ……

アン:だって気になるじゃん。人狼って、昼間は人間なんでしょ。普通に過ごして夜はモンスター。ヒャー。大変だ。友達になれるかな

ヴィル:なってどうするの

アン:んー。どうしようね

ヴィル:なりたいだけか

アン:そうそう、なりたいだけ。ほら、友達に勇者とかがいたら面白いでしょ

ヴィル:フフ

アン:でも森に住んでるんだったら気になるなあ。私とヴィル以外に森に住んでる人、知らないんだ。歩いていける距離に家があったらどうしよ

ヴィル:歩いて行ける距離に人狼の家があったら嫌だな

アン:確かに。あ、でももし襲われそうになっても私は大丈夫

ヴィル:どうして?

アン:この赤いずきんがある

ヴィル:ああ、防御魔法をかけてもらったんだっけ

アン:そうそう、すごいよね。中央都市の大魔術師サマっていう人が特別にかけた赤いずきん。いいでしょ

ヴィル:もうさんざん聞いた。

アン:私も。パパがずっと自慢するから聞き飽きた

ヴィル:魔女に呪われたんだっけ

アン:らしいよー。私は覚えてないけど。

アン:なんだっけ、この国の姫様が、隣国の王子に一目ぼれされた私に嫉妬して? 声と、目と、記憶を奪ったんだっけ

ヴィル:でも無くなった声は知らない人の声をもらったんでしょ

アン:もらったっていうか、コピー、ね。その人と同じ声を私が出してるってだけ。その人は知らない人だから。いまどこでなにやってるか知らないし、何歳かも、なにしてる人かも知らない

ヴィル:マ、確かに、知らない人の声をもらうっていうのはいいなぁ。知りあいが自分と全く同じ声でしゃべってたら気持ち悪いもんな

アン:ソソ。目は難しいって言われた。視覚共有魔法の常用ができるンならまだ楽かもって言われたんだけど、魔力なんてそんなタイソウなの、一般人が持ってるわけないじゃん

ヴィル:そうだなぁ

アン:でも一番気になるのは無くなった過去なんだよね。わたし、前に隣国の王子と会話したことあるらしいよ。ママが言ってた。ね、どんな人なんだろ

ヴィル:さぁ

アン:人に愛されるって、どんな感じなんだろ。しかも王子だよ! クー。気になるな。なんで姫さん、わたしの記憶もってっちゃったんだろ。あーあ

ヴィル:なんでだろうなぁ

アン:ヴィルは誰かのこと、好きになったことある?

ヴィル:なんで。そりゃあるよ

アン:オー! だれだれ

ヴィル:言っても、知らないだろ

アン:気になるんだって。わたしに友達がいないの知ってるでしょ。いても森までこないっつの。町の人にとって森って怖いとこなんだから

ヴィル:……声が、鈴みたいに綺麗な人だったよ

アン:声?

ヴィル:そう。俺、その人の声が好きだったんだ

アン:いまその人なにしてるの?

ヴィル:さあ。もう引っ越しちゃったから知らない

アン:ア、そっか。ヴィル、最近ここにきたもんね。確か隣国だって。

アン:ア! おうじ、王子にはあったことある?

ヴィル:どのだよ。

アン:えーっと、何番目だっけ……

ヴィル:……3番目なら、あったことある

アン:そうそう3番目! わたしに惚れた3番目の王子! どう? イケメン?

ヴィル:シ、知らね~~!! フツウだろ普通。

アン:つまんな! これだから男は。顔大事だから! カオ!

ヴィル:好きになったら顔とかどうでもよくなるって! こら、ちかよるな!

アン:うるさい! お前の顔も触らせろ! ついでにイケメンかどうか見定めてやる。

ヴィル:やめろやめろやめろ

アン:ブッ

アン:(顔から転んだ。根っこに気づかなかったようだ)

ヴィル:大丈夫か?

アン:……へいき、だし

ヴィル:ならすぐ起き上がれよな

アン:……。

ヴィル:これ、ハンカチ

アン:もってるもん

ヴィル:汚してみろ。洗濯するときお母さんに怒られるぞ。「なに? 転んだの?」って

アン:……借りる

ヴィル:どうぞ

アン:(ハンカチで顔を拭いている)

アン:……触ろうとして、ごめん

ヴィル:いいよ

アン:約束、だったもんね。私はヴィルに触っちゃいけない

ヴィル:ちゃんと覚えてるんだね

アン:ヴィルとの約束だもん。覚えてるよ

アン:わたし、ほんとになんにも覚えてないんだよ。ママは誰とも会っちゃダメっていう。パパは、ウザい。

ヴィル:君の父さんは心配なんだよ。

アン:呪いの解ける条件でしょ。わたしが、愛を知ること

ヴィル:……

アン:わたしが声と目と記憶を失くした時に、王子も、魔女に呪いをかけられた。人狼の呪い

アン:町の人狼って、王子じゃないのかって、噂になってた

ヴィル:……

アン:二人の呪いを解く方法はいくつかある。そのうちの一つに、わたしが愛を知るって、あった。わたしはどうやら【愛を忘れた】らしいから

ヴィル:……

アン:自力で、取り戻さなくちゃいけないんだって。でも、わかんないよ。わからないものをどうしてみなくちゃいけないの

アン:わたし、ヴィルには感謝してるの。友達がいなくなって、目も見えなくて、声も変わって、家にこもらなきゃいけなくなったわたしの相手をしてくれるから

ヴィル:なんだよ急に

アン:わたしの今の声、変かな

ヴィル:変だろ

アン:そっか

ヴィル:君の声じゃない。アンの体から、人の声がするの、すごく変だ

アン:……そっか

ヴィル:でもこれだけは覚えていて。声が変わったくらいで、アンのことは嫌いにならないから

0: 

0:遠くからアマリリスを呼ぶ男女の声がする。アンの両親のようだ

母:(遠くからアンを呼ぶ)

母:アンー! アンー! アン! どこにいるのー?

アン:ごめん、もうお昼になっちゃったのかな。ママがわたしを探してる

ヴィル:いや、まだお昼じゃないよ。きっとアンが忘れ物したんだ

ヴィル:……足元には気を付けて

アン:うん。また、お話してね

0:ヴィルヘルムは木影を伝い、その黒と灰色が交じる毛皮を森に隠して去っていった。

母:まあアン。こんなところにいたの。……あら、いい景色ね。お花が満開。

母:……アラ!

アン:ごめんママ。パパのパン。半分食べちゃった。

母:ダメじゃない! パパはお仕事なのよ。きちんとお弁当を届けてあげなくちゃ。アンにはお使いはまだ頼めないわね

アン:だからごめんって

母:……誰かと、おはなししていたの?

アン:してないよ

母:そう。気を付けて頂戴ね。町の人だって言ってたでしょう。人狼がでたのよ。町に最近知らない人の出入りはないから、きっと森からの侵入者だって言われたでしょう。ずきんはきちんと被ってるからいいけれど、人狼の牙が魔法に効くなんて__

アン:もう行こうママ。パパがお腹を空かせちゃう。

母:そう、そうね。もう行きましょうか。アそうだ。ちょっとだけお花をつみましょう。せっかくいい天気だもの

アン:ママ、私も摘んでね

母:ああ、【アマリリス】ね。いいわよ。こんなに沢山の花が咲いてるもの。きっとどこかにあるわ。私、アマリリスはこの森に咲いているのをみたことがあるの

アン:うん。ちゃんと探してね

母:もちろん。ちょっとまっていてね。あっちかしら。アラこの花素敵。これも持っていきましょう。ア、あれも、アラこれも……

0:母は遠ざかっていく。日向に出て花に摘むので夢中になったようだ。アマリリスはその背中に、聞こえないように呟いた。

アン:……お母さんの嘘つき。もし人狼が悪い人だったなら、あんなやさしい声で話しかけたりしないよ。あの人は、きっとずっとやさしい人なんだから。

アン:思い出してあげたいの。ずっと私のことを見てくれる。あの人のために。

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0: 恋

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0:アマリリスの花言葉「輝くばかりの美しさ」

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amamiya

劇をするにあたり演者様の都合の悪い部分の改変は許可します。しかし改変後のシナリオ配布などはしないでください。アイコンは上田にかいてもらいました。